2014年2月25日火曜日

あるギタリストの肖像

昔のはなし。

若造だったおいらは気が合う仲間と年に2回くらいのペースでライブをしていた。
おいら(ギター)のほかはピアノのW君、ベースのE君、ドラムのR君だ。

みんなでけっこう頻繁に行っていた店があった。そこは普段は生演奏などないんだけど、あるときからお願いしてライブをさせてもらっていたのだ。店の人にもお客さんにも好評だった。

何度もライブをして定着していたころ、次のライブ日程がきまったので練習のために集まったときのこと。ベースのE君が見たことない人をつれてきた。年齢はおいらたちより少し上か。ギター弾きだ。T氏という。
E君は仲間内でもアタマひとつ飛びぬけていて、当時いろいろな人たちと共演して顔も広かったのだが、彼が仕事でT氏と知り合って、なんかしらないけどライブいっしょにやりましょうみたいになったそうだ。
ギターがかぶるのはロックみたいでいやだったんだけど、E君の顔をたてる意味もあってT氏との共演をメンバーみんなで了承した。T氏は場慣れしていておいらたちより堂々としていた。

練習のとき、ソリッドボディのギターをもってきたT氏においらは驚愕した。
だって、おいらたちは一応ストレート・アヘッドなジャズをやるバンドだったからだ。堂々としているT氏にみんな気圧されたのか何事もないようにもくもくと準備をした。ところが・・・

T氏はもう、ペラペラペラペラよくしゃべる。しゃべりまくる。しゃべるだけならまだ許せるがその内容が全部自分の自慢話。「大物ミュージシャンといっしょにやった」「すごく大きな舞台で仕事をした」「ギター教室をしているが生徒が200人いる」とか。ずっとこの調子。うんざりだ。1曲おわるたびに自慢話が始まる。鈍感なE君は何も感じてないようだったがおいらとほかのメンバーは心底うんざりしていた。

コードチェンジが少し難しい曲をやることになった。しかもテンポはかなり速い。おいらは(事前に練習していたので)けっこう難なくソロをとった。それをみたT氏が急に態度を変えた。

「もしかしてプロの方ですか?」
「は?ちがいますが」

すると、T氏は安心したようにまた自慢話をはじめた。おいおい、態度かえたのは一瞬だけかよw
しかし、その曲はT氏の技量ではできないようであった(彼はジャズ系ではなかった)。
そのときT氏が信じられないことを言った。

「この曲はやめよう」

わが耳を疑った。ゲストで参加してる立場の人間がなぜ選曲を勝手にきめるのだろう。このライブはおいらたち4人がずっとやってきたのであっておまえは本来はいらないのだ。

でもおいらは若造だったし、そのころはとにかく人と衝突するのがいやだったので自信満々な態度のT氏の意見にしたがった。
つぎにボサノヴァ曲をやることにした。おいらが抜けてピアノがリフ、T氏がリズムを刻むと決めて曲を始めた。しかし・・・

なんと、T氏はボサノヴァが弾けないのだ。バチーダができないとか(当時はバチーダなんていう言葉も一般的ではなかったなあ)ではなく、ボサノヴァを知らないのだ。唖然とした。こんなレベルのひとが延々と自慢話をしているわけだ。へーえ、これが「井の中の蛙」というものなのか。新鮮な驚きだったよ。
結局なんとも妙なボサノヴァもどきとなったんだけど、おいらたちは練習をこなしていった。

そしてライブ当日・・・

(つづく)


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