2015年8月12日水曜日

出すな!





何十年も前の若かった頃の話。
当時住んでいたところにアマチュアでジャズをやっている兄弟がいた。tpとtsだった。おいらの仲間内では「○○(地方名、いや町内の名前w)のブレッカー・ブラザーズ」とあだ名がつけられていた。それほど親しくはなかったけど、ある日彼らから電話がかかってきて、今度ある居酒屋で演奏するので一緒にやってほしいということだった。tp、ts、gのトリオだ。「○○円でいいですか」というそれほど高くはないギャラを提示してきた。別に予定もなかったので了承した。

当日、会場の居酒屋に着くと彼らはすでに来ていた。ところが、何かの手違いなのか、店の中が真っ暗。お店が休みの日は、店主が来ないと電気がつかないらしい。ほとんど見えないながらも楽器をセットしているのをみてローランド・カークもこんな感じなのかなと思ったことを覚えている。
しばらくしてわかったのだがその居酒屋は彼らの行きつけであり、店主と常連客たちと親しげに話している。常連客は当時のおいらより当然年配で会社の部長とか自営業とかそんな感じのひとたちだった。彼らの態度から、今回は仕事というわけではなく兄弟がふだんお世話になっているひとたちに演奏を披露するのだということがわかった。まあそんな人間関係はおいらには関係ない、ギャラもらうからあくまでも仕事だ、と割り切っていた。

1セットが終わって皆でテーブルを囲んで酒をのみながら談笑しているときに常連客のひとりが「キミたち仲いいね。いつも一緒に音楽やってるんでしょ」みたいなことを言い出した。他のひとたちもその話題にのって、なんとなく否定もできず、おいらは兄弟たちと普段から友人であり3人でバンド活動をしている、みたいな設定になってしまった。「これからもよろしく頼むよ」といわれて「はい」としか答えられなかった。
まあこの場だけ話を合わせておこうと思っていたところ兄貴のほうが「ああ、そういえば弁村さん」といって財布からお札を出して「○○円でいいんですよね」といっておいらに渡した。おい!いまこの状況でそれはまずいでしょ、それに人前でお金のやりとりはいかんですよとおもった。
おいらは一気に、仲の良い友人という役から単にカネで頼まれただけの男になってしまいものすごくいづらくなった。特に悪いことをしたわけでもないのに常連客たちを裏切ったかのような罪悪感が芽生えた(おいらが悪いの?)。そのため逃げるように酒を飲んで翌朝重い二日酔いとなったのでした。





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