2015年5月24日日曜日

「9番目の音を探して」



 

大江千里氏のNY留学を書いた本です。

大江氏がジャズ・ミュージシャンになるために渡米したことは、ポップス側よりジャズ側の世界で大きな話題となったように思う。47歳でいままでのキャリアを捨てて一から始めるというのはかなりの勇気が必要だったのではないだろうか。想像してみてほしい。50歳に手が届きそうになる年齢での再出発。経済的に余裕があってもそのキャリアを捨てることはなかなかできない。しかもモノになる保証はない。もし成功しても所詮ジャズなのでたいして売れないw


しかし、本の中で大江氏自身が「ジャズを知らないことを知らなかった」と書いているが、おいらの想像を超えるほど「知らなすぎ」だ。メロディック・マイナーもハーモニック・マイナーも知らなかった(あとからメロディック・マイナー・スケールについて書いてあるけどそれも間違っているw)ところを読むと、なぜ日本で少しは勉強していかなかったのだろうと感じる。スクールでなくてもジャズ・ピアノや軽い理論の本なんかたくさんあるのに、せめて1冊くらい読んでいけば少しは苦労がちがったのではないだろうか。

コードのボイシングについても、下らから1,3,5,7という押え方しか知らないせいで(それがおかしいことも知らない・・・)授業でセッションしたときに若い生徒から「このなかでジャズができないひとがいる。やってられない」みたいなことをあからさまにいわれたりするくだりは、読んでいて苦しくなってくる。ヒヤヒヤしながら読んだ。

でも彼をバカにすることはできないしそんなつもりもない。もし自分が何も知らないのにそういう場面に遭遇したらと容易に考えることができるから重く感じるのだ。リズム・チェンジを知らないことで先生から「ジャズをやろうという人間がリズム・チェンジを知らないって?」とあきれられる。読んでいてこちらもあきれてしまう。本当に何も知らないんじゃないかと。いったいジャズをどんなものと考えて渡米したのかとおもう。

しかしそれでもなんとかくらいついていく大江氏のがんばりには敬服する。ジャズ知らないから他の人よりさらに大変なのに。そういった自分のかっこ悪いところを隠さずにちゃんと書いてあるところがすごいとおもう。

大江氏はポップスのときに作詞していただけあって、文章のところどころに詩的で惹きこまれるような箇所がある。文学的ではないけど全体的に整った読みやすい文章。自分の弱さをさらけ出して頑張るところなどは感情移入してしまう。なんというか、いまの時代はジャズとはいえ学歴が大きく影響することがありますよね。バークリーに行ったか行ってないか、ということ(ドロップアウトしていても「行った」ということが評価されてる)が一つの線引きになっている。おいらは後者なのでそういう人たちの中にいるとやはり肩身が狭いというか、疎外感はある。大江氏はバークリーではなくニュースクールに留学したのだが、彼の音楽からはそういった距離感は感じられない。なんとなく親しみがもてます。(みんなそうでしょうけど)ジャズに対する真剣さがつたわる本であり彼の音楽を知らない人にもおすすめの本です。

しかしさあ、大江氏は一応はそれなりにピアノが弾けるからそれなりに習ってきたはずなのに、コードの転回も各種マイナースケールも知らなかったというのは、いったい日本の非ポピュラー音楽の教育はどうなってるんだろうかと思う。クラシックの世界だけでしか役に立たない教育をしていてそれでいいと思っている、最初からポピュラー音楽を無視した教育を推進するお上にはあきれてしまう。まあちょっとしたコードを覚えただけでそれがすべてだと思うアホなギター小僧が増えるのも本意ではないけどさ。

ところで、あまりにもジャズを知らなすぎの状態で渡米したのを知ると、「中高年が長年の夢をかなえるために」みたいな美談だと思っていたのに「全然長年の夢なんかじゃないよなあ」と思ってしまうことは否めないw



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