Nさんは大ベテランのピアニスト。有名音楽大学を卒業後、華やかな場所で音楽活動をしてきたひとだった。そのせいかおいらのような、現場での経験・実践と独学でやってきた人間を軽蔑していた。考えすぎ?いやいや、すぐわかるよ。他の人と談笑していてもおれとはなすときは蔑む目つきになるもんね。それでも仕事でいっしょにやることはよくあったから、なんとなく気詰まりだったんだけど。
あるとき、Nさんと一緒の演奏のとき休憩時間に店の人間がに客からのリクエストをもってきた。エリントンの曲で有名なんだけど普段あまりやらないようなやつ。だからバンドのメンバーも譜面がないとできないという状況だった。おいらはその曲の譜面をもっていたけど、リハーモナイズされていて原曲とコードがかなりちがうものだった。そのアレンジをしたのはNさんの仲の良い友人Oさんで、当時おいらはそのひとといっしょのバンドをやっていたから持っていたのだった。
ちなみにNさんはOさんのことは認めていて音楽以外でもいろいろつきあっていた。
おいらはそのアレンジされた譜面をだしてみた。しかしあえてOさんによるものだとはいわなかった。
「あのー、リハモでコードがけっこうかわっているやつなら譜面あるんですけど」
Nさんがそれをうけとってまじまじとみた。ドラムのひとが「どう?つかえる?」ときいた。Nさんは明らかに軽蔑した顔つきをして「でたらめだ。話にならん」と突き返した。
そこでおいらは「へぇー、Oさんのアレンジなんですけどねー」といってやった。
Nさんは驚いた顔をしたが「こういう場ではアレンジしたような譜面はつかえないんだよ」といいなおした。一矢報いたような気分だったよw
Nさんについてはもう1つ話があります。
おいらはNさんとたまたまフルバンドのアレンジについて話していた。断っておくがおいらはアレンジについてはちゃんと勉強しているよ。有名音大卒様ほどではないですけどね。
話のなかでおいらが「Ⅳ→Ⅳmという進行のときにⅣmの1拍目のベースラインに♭3の音を指定しようとおもう」といったらNさんが「最悪だ。ルートが1拍目じゃなきゃピアノのボイシングとあわなくなる」と吐き捨てるようにいった。おいらが相手だからそういったのだろうがNさんは音楽を縦で考えすぎるところがある。和音だけが音楽のルールではないんだよ。横の動きも音楽を構成・表現する重要な要素なんだ。Nさんは優れたプレイヤーだけど、ピアノのコードに拘るあまりそこを忘れているようだった。Nさんの論理でいけばCメジャーのコードにおいて、Cイオニアンスケールをメロディでもベースラインでも使えないことになってしまう。
以前Nさんがいっていた言葉を思い出した。
「不思議だねえ。しっかりアレンジされた弦や管の下でベースがコードにそって適当にライン弾いてるだけなのになぜか合う」
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