表紙の写真はニクソン大統領から誕生日を祝福されるエリントン。
ジャズは時代や環境によってとらえられ方がかわってきた。抑圧された黒人の文化に起源をもつことから白人社会から拒絶されたとこもあれば、アメリカ独自の文化として対外的に「アメリカの音楽」として宣伝されたこともある。ジャズ関係者が共産主義とみなされて逮捕されていた時代があるが、冷戦時にはジャズこそ自由の音楽とされた。
白人と黒人など皮膚の色を問わない音楽の象徴とされていたはずが60年代にはブラックの音楽となり社会への抵抗の象徴として機能した。ジャズを禁止していたソ連だが、第二次世界大戦でドイツと戦っていたときは反ファシスト的側面があるとして積極的に奨励した。
このようないろいろな面からのジャズと政治のかかわりが書かれている。昔のフェンダーのカタログに書かれていた「共産圏に住んでいたので隠れてロックを聴いていた」というひとの手紙をおもいだした。
共産圏の文化攻勢に対抗するためにジャズを政治的に利用し「ジャズ大使」としてミュージシャンを世界に送り出したアメリカ。まず選ばれたのがディジー・ガレスピーだった。ガレスピーの紳士的な振る舞いや教養によりアジア、アフリカ、南米で大人気を博した。さまざまなジャズ・ミュージシャンが世界中で演奏したそうだ。商業的ツアーのほうがギャラがよかったらしいのでアメリカの大義に賛同してのことだろうね。
日本に来たのはベニー・グッドマン率いるビッグバンド。当時の評論家のコメントもでているけど、この頃はちゃんといいたいこと言っているからけっこう内容がきつい。グッドマンは昔の自分のレコードをコピーするだけで満足している、モダンやってる若手がグッドマンのスタイルに合わせていた、ジャズを世界に送り出しているのはソ連に対抗するアメリカの手段だ、など。70年代にベニー・グッドマンとガレスピーが来日したときグッドマンだけ好待遇で迎えの自動車を用意されてディジーが怒ったそうだけど、こういった背景が関係しているのかな。
ともあれ、「ジャズ大使」は世界中で喝采をうけ大成功にみえたが、アメリカ国内ではおそらく人種差別的な要素もあるのだろう、税金のムダ等の批判もあったそうだ。別のジャズ大使として日本にきたジャック・ティーガーデンは「かねてからクルーパー、サッチモ、グッドマン、ピーナッツハッコーから日本は素晴らしいと聞かされていたが、予想以上。私たちの音楽が正しく理解されている」と絶賛したそうだ。こういうエピソードはうれしくなる。まあ、以上に挙げたのはこの本のごくわかりやすい部分。いままでのジャズ本でこういったものはなかったとおもう。おすすめです。
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