NHKの連ドラ「とと姉ちゃん」で、広告を掲載したせいで自由に雑誌作りができなくなるというエピソードがあったが、それを実際に体現して見せたのが後期のSJ誌だろう。レビューで紹介する新譜は平均4つ星半(5点満点で)、再発の駄作でも3つ星、星の数と文章は一致しないという現象が普通に続いていた。星が高いのに文章ではけなしている、という、評論家によるスポンサーへの抵抗というのか。
他にも要因はあるけど、これでは読者が離れるのも仕方ない。廃刊前20年くらいしか知らない人は信じられないだろうけど、初期のSJ誌は本当におもしろかったのだ。後期でも面白い企画は少しはあり、そのうちのひとつが小川隆夫氏によるブラインド・フォール・テストだった。これは、ミュージシャンを読んでブラインド・フォールド・テストをするという企画で、それを軸にいろいろな話をきかせてもらうというものだ。誰でも知っている超名盤を選択するというつまらんときもあったけどね。てか、ブラインド・フォールドが主旨ではないから、たいていは有名盤を選択してたな。たまに「ブラインド・フォールドというから緊張して来たのに、どうして有名盤ばかりなんだ」と言って怒って、小川氏があわてて主旨を説明するというときもあった。
さて、その連載から抜粋したものが本になった。いまや伝説となったペデルセンやバルネ・ウィランの回を収録しているかどうかが気になったがどちらも入っていた。英断だwこれはもう「買い」だろう。
SJ誌に連載しているときはそれほどとはおもわなかったけど、今読み直してみるとかなりおもしろい。冒頭のフレディ・ハバードの回で、ウィントンがなぜつまらないかの答えを的確に言っている。抽象的にいっているがものすごい洞察力によるものだ。かといえばウィントンを絶賛しているひともいるしね。80年代らしい内容だ(連載は84年開始)。
そのウィントンとロン・カーターが同じトラック(マンハッタン・ジャズ・クインテットのサマータイム)について正反対の意見をいっているのがおもしろい。ウィントンが「チャーネット・モフェット以外みんな白人であり白人ジャズのダメな典型」と言っているのに対し、ロンは「チャーネットが未熟で他の4人がよすぎる」といっている。アレンジについてもウィントンは「陳腐」といっているがロンは「面白い」という。そして、ソロのトップバッターがベースだということについてはウィントンは「ありえない」といい、ロンは「いいアイデア」だという。コメントからどうのこうのと判断はできないけど意見の違いはおもしろい。それにしても小川さん、「現代最高のベーシストはレイ・ブラウンとロン・カーターの二人だということに異を唱える人は少ないだろう」って、“気は確かか?”ですよ!
ちなみにロンはチャーネットがデビューするときに「もう1年待て。1年間クラブにでるな。勉強しろ」といったそうだが、単に実力ある若手に仕事うばわれないように工作しただけじゃないのか?ww
それにしてもやはりペデルセンの回はすごい。ロンの音程について「ミステリアス」と言い切ったが、それだけでなく全編辛口だ。10代半ばからジャズのジャイアンツたちと演奏していたひとの重みを感じた。それにしても小川さん、ロンの音程を酷評されたときに「ロン・カーターがですか?」などと驚かないでくれ。その驚きのほうが驚くよ。「気は確かか?」ってね。
ペデルセンに並ぶもう1つの伝説、バルネ・ウィランの回については、ぜひ書籍で読んでもらいたい。
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